塩川雄也写真展“Primorsky”「守られるべき穏やかな日常はそこにありました」

塩川雄也写真展
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3月16日から24日まで、銀座のCO-CO PHOTO SALONで「Primorsky」と題された写真展が開催されました。写真家の塩川雄也さんが2018年夏と2020年冬に訪ねたウラジオストクやハバロフスクの旅で出合った平穏な日常を撮影したもので、夏と冬でまったく異なる風景を新鮮なタッチで見せてくれます。

これまで本サイトでは、ウラジオストクをテーマにした写真家の作品を紹介してきました。今回はその3回目です。

さっそく、塩川さんの作品を紹介します。まずは夏のシーンから。

2018
「日本から僅か2時間余り
極東ロシアの沿海地方に到着した

心地よい陽射しに包まれた港街
シベリア鉄道の起点ウラジオストクからオケアン号に乗り込み
憧れの旅路へ向かうことにした

僕はまた異国のこの街で
心安らぐ場所を探していたのかもしれない」

ウラジオストク空港を出ると清々しい青空が迎えてくれた。

ウラジオストク空港近くのバス停

街へ向かう途中でバスを降ろされる。午後8時4分、街までしばらく歩くことにした。

ウラジオストク市街へ向かう途中の街

ロシアにも夏がある。鮮やかで、暖かい日々が続いていた。

ウラジオストクのビーチの様子

灯台から戻る人の群れ。楽しそうにはしゃぐ少年が飛び出してきた。

トカレフスキー灯台から戻る人の群れ

寝台列車で朝を迎える。僕だけが起きている車両で優しい朝日が差し込んだ。

寝台列車で眠る少女

2020
「鮮やかな日々に思いを馳せ
再び訪れた冬の終わり

眩い青さに満ちていたアムールの海は
対岸まで続く氷の世界に姿を変えていた

氷上を漂う人々は 静寂の中に身を委ね 穏やかな時間を過ごしていた

肌を刺すような寒さを忘れるほど 薄明の中で光を追い求めた日々も
今では遠い記憶のように感じている」

朝早くから釣りを楽しむ夫婦。穏やかな時間が流れていた。

ワカサギ釣りを楽しむ夫婦

どこまでも続く氷の海。ぽつりぽつりと釣り人たち。

釣り人たち

君も試してみないか?そう声をかけられるが、僕には入る勇気がなかった。

寒中水泳する男性たち

高台のふもと。年月を巻き戻したようなノスタルジックな通り道。

ノスタルジックな通り道

薄明かりが続く丘の上で、いつの間にかこの街に心を奪われていた。

灯りのともる街

塩川さんに話を聞きました。

―ロシアに対する関心が芽生え、ウラジオストクで撮影をしようと考えたきっかけは何だったのですか?

ぼくは旅をすることを何より大切にしたいので、写真を撮るために旅をするというより、旅先で見たもの、感じたものを情景として残すというスタンスです。

ロシアに対する興味は、あるロシア人の写真家の作品に惹かれていたこともあり、この国へ行ってみたいという気持ちは高まっていました。エヴァゲニア・アルブガエヴァ(Evgenia Arbugaeva)という写真家の「Tiksi」という作品です。

※エヴァゲニア・アルブガエヴァは、1985年に北極海の一部であるラプテフ海に面したレナ川の最下流の町ティクシ生まれた写真家で、「ナショナルジオグラフィック」などでも作品を発表しています。

ウラジオストクはなにしろ近い。2時間で行ける。
逆にいつでも行けると思って少し後回しになっていました。2017年夏にロシア沿海地方の電子ビザが発給されるなど、話題になることが多くなりましたが、日本から近い場所にもかかわらず、知らないことばかりでした。実際に足を運んでみたいとあらためて思い、18年の夏に旅をすることにしました。

―ウラジオストクに行く前と行ってからで印象はどう変わりましたか?

行く前のロシアのイメージは、よくいう「寒い」「暗い」「怖い」というものでしたが、実際に行ってみたら、まったく逆でした。7月だったので、街は明るく、人々は陽気で、海ではしゃいでいる。旅人にもやさしい。

これまでのイメージが完全に崩れました。ゲストハウスのドミトリーに泊まって、気が向くまま街を歩きました。食事は同じ宿にいた人たちから「あそこの店はよかったよ」なんて聞いて、ペリメニやスープが気に入りました。

実は、2019年1月に夏に撮った極東ロシアの写真展をやりました。そのとき、ウラジオストクに詳しい人が来てくれて「冬は寒いけど、凍った海もきれいだから、ぜひ行ってみてほしい」と言われたこともあり、2020年2月、コロナ禍になる直前に再びウラジオストクに行きました。

とても寒かったけど、ウラジオストクは思ったほど雪は少ないのですね。衝撃だったのは、地元の人たちが氷の海に穴を開けて泳いでいたこと。前回、夏に海水浴を楽しむ人たちの姿を見ていたので、同じ場所であることが驚きでした。

日の出前に朝日を撮ろうと氷の海に行くと、ぽつぽつ人々がやって来ました。何だろうと思ったら、氷に穴を開けてワカサギを釣っていました。

夏と冬のギャップが大きい。写真家にとって、こういう二面性はとても面白いのです。

―今回の写真展で塩川さんが伝えたかったことは何でしょうか?

ロシアの軍隊がウクライナに侵攻した2月24日の夜、ぼくは写真展の準備をしていました。あまりのことで、今回の写真展はやめた方がいいのかなと一瞬思いました。

いまの時代、情報が錯綜し、何が正しいのか判断することは難しい。でも、現地で知り合った人たちといまでもSNSなどで連絡を取り合っています。ロシアには平和を願っている人たちがたくさんいることを知っています。

であればこそ、自分が見たロシアにも平和を願う人たちがいて、守られるべき穏やかな日常があることを伝えたいと思うのです。

―今後の展望などをお聞かせください。

早く平和が戻って、またロシアに行きたいです。最近では屋久島での撮影にも取り組んでいます。屋久島の自然と向き合うことは、ぼくにとって新しいチャレンジです。自分の作品に変化が生まれることを期待しています。

塩川雄也さんの写真集「Primorsky」や問い合わせはこちら

塩川雄也さんの写真集「Primorsky」

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