スラブ圏を旅した写真家がウラジオストクを訪ねてみようと思った理由

松井正子さん写真展
アート

ウラジオストクを撮影のために訪ねる写真家が現れています。

今回紹介するのは、2019年5月下旬、ウラジオストクを訪ねた写真家の松井正子さんです。1970年代より、政治・宗教・文化の異なる国々で感じた共通する潜在観念を掬い取りたいと考え、ポルトガルとそのかつての植民地やスラブ圏など、海外で撮影した写真を発表してきました。

松井さん提供のモノクロ写真1

新宿・photographers’ gallery、KULA PHOTO GALLERYで11月15日から29日まで、松井さんの写真展「Six days in Vladivostok-ウラジオストクの6日間-」「Japan in my mind-記憶の日本-」が開催されました。写真展の会場で松井さんにお話をうかがいました。

→松井さんの写真展の紹介記事はこちら

―昨年のウラジオストク旅行のきっかけや目的を教えていただけますか。

「私は1990年代から2010年代にかけてバルカン半島やバルト三国などのスラブ圏を撮影のために訪ねていました。ところが、スラブ圏の締めともいうべきロシアに行く機会を逸していたので、いつの日か訪ねようと思っていたのです。これまでの経験から、ロシアには日本に共通する潜在観念のようなものがあると考えていました。

そのうち、極東ロシアで電子ビザの発給が始まりました。これがいちばん大きな理由で、とりあえず行ってみようかと、渡航のあと押しをしてくれました。思い立って下調べもせず出かけてしまったのですが、この街と人のありようを撮ろうと考えていました。ロシア正教の聖堂内を撮影したかったのですが、中国人観光客が増えたことで、撮影は一切禁止されていたのが残念でした」

―初めてウラジオストクを訪ねて、何を感じましたか。

「私の知人に、1990年代初頭のソ連崩壊直後のウラジオストクで撮影した写真家がいて、当時の殺伐とした街の緊張したイメージが強く印象に残っていたのですが、実際訪ねてみると、違うんだなと思いました。当時と違い、いまは明るく、ふつうに旅ができる街ですね。中国語やハングルの看板が多いことに気がつき、ここは日本とは違い、大陸なんだなあと思いました」

松井さん提供のモノクロ写真2

―6日間をどんな風に過ごしながら、撮影していたのですか。

「6日間といっても、行き帰りの2日間を差し引くと、滞在は丸4日間に過ぎないのですが、天候にはあまり恵まれず、雨ばかりでした。ウラジオストク駅に近いプリモーリエに滞在し、毎日あちこちを歩き回りました。

ウラジオストク港の遊覧船にも乗りましたし、路線バスでルースキー島の沿海地方水族館にも行きました。遊覧船の中は、私以外は中国人でした。国際客船ターミナルに英語を話すツーリストインフォメーションがあるので、毎日のように訪ねて、バスの乗り方などを教えてもらいました」

松井さん提供のモノクロ写真3

―ウラジオストクでは何を撮りたかったのですか。

「予備知識もない初めての街を訪ねて、私にできることは、これまで訪ねた国々の場合と同じように、日本的なものを拾って歩いていたのだといえるかもしれません。自分の中にある情緒と合う風景を見つけてシャッターを押していたという感じでしょうか」

松井さん提供のモノクロ写真4

松井さんからいくつかの作品を提供していただきました。すべてモノクロ撮影によるストリート写真です。ウラジオストクにすでに何度も足を運び、街に親しんでいる本ニュースサイト編集長は、これらの写真がどこで撮られたのか大抵見当はつきますが、ずいぶん印象が違って見えるところが興味深いです。これらの作品は旅人の目線であり、一枚一枚の風景の切り撮られ方も新鮮に感じます。

松井さん提供のモノクロ写真5

松井さんは「自分の中にある情緒と合う風景を見つけてシャッターを押していた」と話していましたが、そういう視点でみると、初めてウラジオストクを訪ねたときのことを思い出すような共感をおぼえるカットであることに気づきました。松井さんは、いわゆるウラジオストクらしい光景を撮ることが目的ではありません。ロシアという異国でありながら、街角で出合った自分に通じる情緒を直感的に押さえていった、その記録なのだと思いました。

「これからウラジオストクには多くの日本人が訪ねることになると思います。そういう街に生まれ変わっていました。ですから、そうなる前の、この時期に訪ねられたのは良かったと思います。本当は今年、ハバロフスクに行こうと計画していたのですが、コロナのために行けなくなりました。今後、サハリンにも行ってみたいですね」と松井さんは話しています。

今回の写真展にあわせて、写真集が刊行されています。2019年に訪れたウラジオストクでの6日間を、旅の途上にある撮影者と現地の人や風景との「間合い」が街を歩くリズムを刻むように撮影している作品集です。

松井さんの作品集『SIX DAYS IN VLADIVOSTOK-ウラジオストクの6日間』

『SIX DAYS IN VLADIVOSTOK-ウラジオストクの6日間』

発行:KULA

発行日:2020年11月15日

価 格:1900円+税

photographers Galleryホームページで購入できます。

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