人気カクテルバー「アテリエル」のフョードルさんの東京バーめぐり
ウラジオストクは港町らしく、たくさんの酒場があります。ビールやワインをメインに出すおしゃれなバーも、最近は多いです。カクテル専門のバーもあります。
スヴェトランスカヤ通りに面した「アテリエル(Atelier)」は、ドリンクメニューを置かない(つまり、お客さんと会話しながらバーテンがその日の気分に合ったオリジナルカクテルをつくってくれる)バーとして知られています。同バーの若きバーテンダー、フョードル・ヴァイソフさん(Фёдр Ваисов)に、仕事の話や東京でバーめぐりをした話などを聞きました。
― アテリエル はいつオープンしましたか?
2017年12月8日です。ご覧のとおり、19世紀の英国ヴィクトリア朝の時代を感じさせる内装にしています。他の店とは違うオリジナリティを感じてもらいたいという思いから、このようなデザインにしました。
―このバーの特徴は店にドリンクメニューを置かないことだそうですね。
はい、バーテンダーがお客さんと会話をしながらカクテルをつくります。お客さんにカクテル文化に触れていただくというのが店のコンセプトなのです。
オープン当初は「やっぱりメニューをつくろうか?」とスタッフ同士で話し合った時期もありました。メニューがないので、何を注文していいのかわからず、少し緊張しているお客さんもいましたから。
でも、そんなときは、こちらから話しかけることにしています。バーテンダーとの会話が始まると、だんだんお客さんはリラックスしてくるのがわかります。たいていのお客さんにとって、それは心地よい気分のようです。いまでは、うちに来てくれるお客さんの多くは、バーテンダーとの会話を楽しみにしていると思います。
なお、店にはビールを置いていません。それ以外のアルコールはすべて楽しんでいただけます。食事のメニューはあります。
―日本人の旅行者も来ますか?
少しずつ増えています。最初はメニューがないというと驚きますが、我々も簡単な英語で「甘いのがお好きですか?」「酸っぱいのは大丈夫ですか?」とやさしい言葉で尋ねるように努めているので、日本人のお客さんも楽しんでいるようですよ。
―フョードルさんの生まれはどちらですか?
私はモスクワの郊外で生まれました。中等教育が終わる18歳までいました。
18か19の頃、父が仕事で単身、ウラジオストクに来ることになりました。そんな父に誘われて、ウラジオストクに来ました。この町の最初の印象は、首都モスクワと比べて、とても穏やかで、人々も親切でやさしいと思いました。モスクワは生活のスピードや人の動きも速いのですが、ウラジオストクは落ち着いているので、だんだん好きになりました。
―いつ頃からバーテンダーとして働いているのですか?
2013年頃からです。当時のウラジオストクにはカクテルバーは、いまとは比較にならないほど少なかったです。確か、2軒くらいだったと思います。
―ウラジオストクとモスクワではバー文化に違いはありますか?
ありますね。ウラジオストクは日本をはじめとしたアジアの国々に囲まれた場所なので、アジアっぽいフレンドリーさがあるような気がします。その一方で、バー文化先進地の日本から学ぶことも多いです。日本のバーを初めて訪ねたとき、印象に残っているのは、お客さんが来店すると、バーテンダーは軽く会釈して、ちょっとした会話をし、水を出すという光景です。日本のバー文化は、そのようなある一定の形式、スタンダードを備えたサービスが特徴だと思います。
モスクワはヨーロッパのバー文化の影響が強く、もう少しくだけた感じです。ヨーロッパのバーでは、笑顔を見せるバーテンダーも多い気がします。
―昨年、日本に旅行に行って東京のバーめぐりをしたそうですね。
はい、ちょうどそのとき、東京でカクテル&バーフェスタというのが行われていて、新作のお酒を試したり、メーカーの人と直接対話させてもらったりと、大変有意義に過ごしました。ワークショップにも参加しました。
日本のバーテンダーは、細部に非常に気を配ります。そして作業が緻密、正確です。日本人バーテンダーが店に立っていると、豊富な経験、そして自分の仕事に対する自信が感じられます。会話がなくてもお客さんに素晴らしい印象を与えていると思いました。
―日本のバーの関係者との交流はいつ頃から始まったのですか?
日本に行く前にSNS等で連絡を取り合い、実際にいくつものバーを訪ね、日本のバーテンダーたちと会いました。たとえば、新宿のカクテルバー「Ben Fiddich」の鹿山博康さんや「MIXOLOGY Laboratory」の三和隆介さんで、おふたりはその後、ウラジオストクに遊びに来て、うちのバーを訪ねてくれました。
最近、日本の素晴らしいバーテンダーたちがウラジオストクに来てくれるようになり、我々は大変な恩恵を受けています。「パトロン ザ・パーフェクショニスト カクテルコンペティション 2018」の日本代表・中村充宏さんという著名なバーテンダーも、ウラジオストク空港の近くの大きなレストランで技を披露してくれました。
(鹿山博康さんは、自身の畑で栽培しているボタニカルカクテル、薬草酒、アブサン、古酒に精通)
―将来、どのようなバーテンダーになりたいですか?
今年は11月に全ロシアのバーテンダーコンクールがあるので、それに参加する予定です。昨年はうちの店として団体コンクールに参加しました。私以外のバーテンダーはみんなウラジオストクの出身です。こういうコンクールに参加し、表彰されると、自分の技術の証になるのでやりがいがあります。
バーテンダーであれば、誰でも最終的には自分の店を持ちたいと思います。でも、私はまだその段階ではなくて、いまは日々勉強して、成長していきたいです。
フョードルさんは20代とは思えない、落ち着いた風貌と雰囲気を持った好青年です。日本人との交流をとても大事にしてくれる人です。ウラジオストクを訪ねたときは、ぜひ「アテリエル」に足を運んでみてください。歓待してくれることでしょう。
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