電車の中のアコーディオン弾きは実在します―Look at Vladivostok【後編】
2020年7月上旬、ウラジオストクで写真コンテスト「LOOK AT VLADIVOSTOK」が開催され、前回、受賞作品8点を報告しました。今回は、その後編です。残りの8点を紹介します。
まずノミネートのテーマ「感情」の作品の続きからです。
ウラジオストク市内で開催されたボディービルダー大会の優勝者のカットです。引き締まったボディという表現を超えて、ムキムキに隆起した筋肉の塊に目を見張ります。優勝が告げられた瞬間でしょうか。彼の雄叫びが聞こえてくるようです。
テーマ「感情」
「ウィナー!」
Антон Блохин アントン・ブロヒン
次も「感情」がテーマですが、先ほどとは対照的です。大人を相手にチェスで勝った(ホントかな?)少女の喜びのシーンです。あどけない笑顔が微笑みを誘います。この瞬間をカメラマンのママは狙っていたのかもしれません。
テーマ「感情」
「勝ったぁ!」
Вера Щербакова ベラ・シェルバコワ
以下の2点のテーマは「マルチプランビリティ(多重構想)」。レンズ越しに切り撮って見せる世界は、いくつもの意味を同時に含んでいるようです。それが偶然なのか、意図された結果なのかはわかりませんが、写真家のたくらみが込められた作品です。
深く厚い霧に包まれたウラジオストク。手前の橋は半島とルースキー島をつなぐルースキー大橋です。左手はるか遠くに金角湾大橋やテレビ塔が見えます。ドローンで撮影したものと思われます。
ちなみにウラジオストクのふたつの大型橋は、ともに塔から斜めに張ったケーブルを橋桁に直接つなぎ支える構造を持つ斜張橋です。だから、塔の部分だけが雲から突き出しているように見えるのです。夏の特に午前中、日本海に面したウラジオストクは、海水温と陸地の気温の差からこのような大量な霧が発生し、覆われてしまう日が多いのです。正午を過ぎると、何事もなかったかのように霧は消えてしまいます。
テーマ「マルチプランビリティ(多重構想)」
「そこには何かがある」
Виктор Гохович ビクター・ゴホビッチ
手前にいる女の人は銅像です。彼女の目の前の通りには、消費者金融の広告をデカデカと貼り付けた路線バスが走っています。
この銅像は、1894年から1930年まで36年間、領事の妻としてウラジオストクに滞在したアメリカ人女性エレノア・プレイの像で、スヴェトランスカヤ通りのグム百貨店とニコライ2世凱旋門の間くらいの場所にあります。つまり、この作品のタイトル「エレノアは何を想うのか…」には、この銅像の当人である彼女がいまのウラジオストクを見てどう想うのだろう? という社会批評的なニュアンスが感じられます。
テーマ「マルチプランビリティ(多重構想)」
「エレノアは何を想うのか…」
Женя Фомушкина ユージン・フォムシュキナ
エレノア・プレイの銅像が建立されたのは、2014年7月4日のアメリカ独立記念日です。
彼女のウラジオストク在住36年間には、1904~05年の日露戦争やロシア革命など、20世紀初頭の激動の時代が含まれます。この地を愛した彼女は、当時のウラジオストクの写真や文章を多く残しています。こうしたことから地元の人たちも彼女を敬愛しています。
以下、特別賞です。
まず「9月の光」と題された、窓から部屋に差し込む陽光を美しく撮った作品です。まるでレーザー光線のようにも、またオーロラのようにも見えます。
特別賞
「9月の光」
Алексей Федосеев アレクセイ・フェドセフ
次は、なかなかいなせなカットです。アコーディオン弾きの彼は、乗客が普通にいる近郊電車(エレクトリーチカ)に乗り込み、演奏しています。
特別賞
「電車の中のストリートミュージシャン」
Евгений Коротков エフゲニー・コロトコフ
次も印象的なカットです。彼女の顔を覆うシダの影は、タトゥーのようにも見えます。シダといえば、ニュージーランドのオールブラックスのロゴマークを思い出しますが、極東ロシアにも多くのシダ類が植生しています。ワラビもよく食卓に上ります。そんなことを想いながら、この写真をみていると、ちょっぴり楽しくなります。
特別賞
「緑の眼」
Екатерина Москаленко エカテリーナ・モスカレンコ
最後は、秋空の下に肩を組む男の子の兄弟です。はるか遠くに海が見えます。ふたりの表情がいいですね。
特別賞
「兄弟」
Наталья Грек ナタリア・グレク
2013年から始まった写真コンテスト「LOOK AT VLADIVOSTOK」を創設したのは、ウラジオストク生まれのヴィータ・マスリーさんで、現在モスクワで活動中の写真家です。毎回コンテストのモデレーターとキュレーターを務めています。
「このコンテストを始めた目的は、ウラジオストクの写真家を支援し、写真が人々の生活の一部となることで、町のイメージを向上させることにあります。この町の写真家たちにお願いがあります。ぜひ新しいウラジオストクを見せてください」。そう彼女は話します。
次回はどんな新しいウラジオストクの顔を見せてくれるのでしょうか。楽しみですね。
ところで、 特別賞の「 電車の中のアコーディオン弾き 」の作品 をみて、実際にこのような「電車の中のストリートミュージシャン」がいたことを思い出しました。本ニュースサイトでも多くの撮影に協力していただいている写真家の佐藤憲一さんが撮っています。
この写真は、ウスリースクからウラジオストクに向かう近郊電車の中で偶然に撮ったものです。空席がまったくないほど混み合っていた客車の中で、ふたりの青年が突然乗り込んできて、アコーディオンを伴奏に歌を歌い始めたのです。
ウラジオストクに行くと、このような素敵なシーン出会えることをお約束します。
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