ウラジオストクのコーヒー文化は地元のバリスタが支えています
ロシアといえば紅茶の国。間違いではないけれど、「そういう見方はステレオタイプ」と語るひとりのバリスタに、ウラジオストクで会いました。
実際、ウラジオストクはカフェの町といってもいいほど、たくさんの店があります。その多くは、紅茶とともに、さまざまなタイプのコーヒーを出してくれます。
なかでも極東ロシア各地にあるカフェチェーン「カフェマ」は、各店ごとの内装デザインやインテリアはそれぞれテーマ性があり、ひとつとして同じ店はないほど個性的です。
カフェマには多くのバリスタが働いていますが、最古参のバリスタのひとりがドミトリー・レシェトニコフ(Дмиторий Решетников)さんです。彼がバリスタになった経緯や仕事のやりがい、最近のウラジオストクのコーヒー文化について話を聞きました。
ドミトリーさんが生まれたのはバイカル湖のあるイルクーツク近郊の町。子供の頃に親と一緒にウラジオストクに引っ越ししてきて20年以上は経つので、ウラジオストクはもう出身地みたいなものだそうです。
バリスタになったきっかけは、いまから5年前のこと。初めて「カフェマ」に足を運んだとき、店の雰囲気がとても気に入って、バリスタという職業があることを知ったので、その店ですぐ働くようになったそうです。
最初はトレーニングの日々、少しずつ実地で経験を積みつつ、繰り返しトレーニングを受けます。カフェマチェーンにはバリスタ用の専門トレーニングセンターもあります。
ドミトリーさんは、バリスタの仕事はコーヒーの淹れ方や豆についての知識を学び、おいしいコーヒーを提供することが基本ですが、お客さんにコーヒーについて関心を持ってもらえるよう努めるのも大事だと言います。
バリスタという仕事の魅力について聞くと、彼はこう答えました。
「無限に成長していけるということでしょうか。日々スキルを磨き、知識を増やしていくこともそうですし、バリスタの選手権があるので、上を目指して修練したり、さらにはバリスタを育てるトレーナーになることもできます。こういう広がりがバリスタの魅力だと思います」
ここ数年、ロシアではバリスタの選手権の全国大会が開かれています。この選手権では、バリスタのさまざまな技術や能力を判定するいくつかの部門や基準があり、純粋にコーヒーを淹れるだけでなく、自分の作品に対するプレゼンテーションも重要です。ラテの上に絵を描き、その美しさを競うという部門もあります。
まず地域ごとに予選があり、優勝すると全ロシア大会に進めます。ジーマさんは2018年から参加しており、極東ロシア地域で6位になったそうです。もっと上を目指していきたいと彼は話しています。
バリスタ選手権に参加する理由を、彼は次のように語ってくれました。
「私にとってバリスタ選手権への参加は、自分を成長させるために重要です。コーヒーをただ淹れるのであればロボットでもできます。大会があることで自分の腕を磨き、理想を求めて成長していくことができます。多くの参加者と絆を深めることができる貴重な機会です。
ロシアは他の国々と比べ、コーヒー文化が根づくのが遅れていたことから、バリスタという仕事の認知度もそれほど高くありません。昔はカフェの仕事といえば、学生のアルバイトというイメージでしたが、最近はバリスタとして成長することを目的にこの業界に入ってくる目的意識の高い人も増えています」
一般にロシアといえば紅茶文化のイメージが強いことについて、ドミトリーさんはこう言います。
「ロシア=紅茶というのはもはやステレオタイプだと思います。スペシャリティーコーヒーという概念が普及してきたここ10年というもの、ロシアのコーヒー文化は急速に発展しました。うちの店も5、6年前はウラジオストクで1店舗だけだったのが、いまでは5店舗になりました」
ウラジオストクの人たちのコーヒーに対する意識も変わって来たようです。ドミトリーさんは続けて話します。
「何よりコーヒーをブラックで楽しむ人が圧倒的に増えました(笑)。昔は砂糖やミルクを入れて飲む人が多かったのですが、いまは豆本来の味を求める人が多いです。
そうなると今度は、コーヒー豆の種類の違いや産地などについても関心を持つようになります。初めはオーソドックスな淹れ方しか知らなかった人も、フラスコを使う淹れ方にも興味が出てきます。お店で飲むだけでなくて、家で試したいというニーズも自然と高まりました。
うちのお店ではコーヒー豆や器具も販売して、それを目当てに来られる方も増えました。コーヒーの淹れ方や豆についてレクチャーするワークショップも盛況です。毎年行われる「Kofevostok」というコーヒー文化のイベントも人気で、こうしたこともウラジオストクのコーヒー文化の発展に寄与しているはずです」
最後にドミトリーさんの夢を聞きました。
「先のことはわからないのですが、この先5年間はバリスタとして成長し、選手権でもより上を目指したいです。同時にバリスタを育てる立場であるトレーナーの勉強もしていこうと思います。多くの若い世代がバリスタの仕事に憧れを持ってもらえるように、私自身もいつか自分のカフェを持ちたいと思います」
※このインタビューは2019年12月に行ったものです。
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